ローザンヌ滞在記:16日目

12/3、水曜日。曇り。ローザンヌは本当にハレの日が少ないのです。

8時10分ごろに起きて、シャワーを浴びてコーヒーを淹れる。パンを頬張って掃除を少し行ない、すぐ出発。

昨晩は遅くまで「ブラックジャックによろしく」を読んでしまって少し寝不足気味でした。 あの漫画は、著作権で認められている権利を部分的に放棄していることで有名です。 医者の「実情」を風刺した現実的な漫画としてはかなり面白いものだと思います。 僕の兄と父は医者なので、あまり漫画に出てくるような典型的な悪医者の存在には無頓着なのですが。

電車の中でも読みつづけ、大学に到着。すぐに計算を始める。既にネコがオフィスで寛いでいました。

今日はモランモデルでの移動分散の進化の計算と、血縁度の計算です。 昨日は血縁度の計算でやきもきしたのですが、今日はまずESSの計算がサラリと終わり。非常に美しい関数形になりました。 僕が正しければ、モランプロセスに従う島モデルでの移動分散率\( d \)のESSは、群れのサイズ \( N\)と、移動分散のコスト \( c \)に対して、

\begin{align} d=\frac{1}{1+cN} \end{align}

でしょうか。知っている人は教えて下さい。

11h30に昼食へ。今日はポテトとウインナーという典型的なドイツ料理。食後はコーヒー。 それにしても、ネイティブたちが盛んに笑い話をしている時についていけないのが実に悔しいです。 喋るのが速いのもあるけど、バックグラウンドを完全には把握していないから、いまいち話に乗りきれないのです。 そう、僕は寡黙なのです。

オフィスに戻って計算。今度は血縁度の漸化式。高校数学を思い出して何度やっても、論文と計算があわずにヤキモキ。。 \( F \)を、他個体とのIBD、\( R \)を、自身を含めた個体間のIBD、\( N \)を群れのサイズとして、 \begin{align} R=\frac{1}{N}+\frac{N-1}{N}F \end{align} は常に成立する式です。じゃあ世代が更新されるとどうなるか。モランプロセスでは、各ハプロイド個体が子供を産み(クローン繁殖)、子供たちは分散(分散率=\( m\))し、 各群れの中からランダムに1個体が死んで、その空いた空間を子どもたちが競うというモデルです。つまり、各群れの1匹は死に、残りの\( N-1\)匹は 次世代に残ってまた子供を残せます。

現在の世代について、群れを一つ固定します。その中から、ランダムに異なる2匹をサンプルします。 その2匹は、確率\( \frac{N-2}{N} \)で、前の世代からの生き残りです。 その場合、それらがIBDである確率は、前の世代の\( F \)値に等しい;

一方、サンプルされた2匹のうち1匹は、確率\( \frac{2}{N}\)で、空いたスポットを埋められた個体です。 その個体は、確率\( 1-m \)で、同じ群れに親を持ちますが、そのとき、2匹がIBDである確率は \( R \)です。ということで

\begin{align} F(t+1) =\frac{2}{N}(1-m)R(t)+ \frac{N-2}{N} F(t) \end{align}

という漸化式が得られます。

しかしこの漸化式が、先行研究のものと違うのです。先行研究では

\begin{align} F(t+1) =(1-m)(\frac{1}{N}+ \frac{N-1}{N} F(t)) \end{align}

となっています。うーん。なっとくせぬまま、ラボミーティングへ。

今日のミーティングお題は、これ: The evolution of eusociality (Nowak et al. 2010, Nature)。

そう、例の◯◯な論文です。Laurentはセミナールームに到着するや「Ready for fight?」、「Which side are you in?」などと冗談を飛ばす始末。

主に彼らのモデルについて紹介してもらいました。単独性の個体の頻度を\( x_0 \)、 \( i \)個体で暮らす真社会性のコロニーの頻度を \( x_i\)として、それらの頻度変化をマルコフチェインで記述。 結果、移住率がマイルドな値の時に真社会性が進化する、という結論…。はあ、そうですか、という感じです。

彼らの、包括適応度への批判ポイントは彼らの無知を晒しているだけだというのと、 「Nowak論文は無視するのが一番」というのが、我々の結論でした。

その後、オフィスへ戻って、S.P.と飯を食べ、ショーを一緒に観に行きました。

このショーは、UNILの関係者たち(とくに僕の所属するDEEというグループ関係者たち)が中心になって、「コント」のようなものをする会です。 舞台のそばにはバーもあるのでそこでベルギービールを(友人に)買って(頂いて)、ショーを楽しみました。

そのショーとは、様々なお題が観客から与えられ、それをパフォーマンスするというもの。 たとえば、「これから、Cは、大学教授として講演をします。さて、その専攻は?その内容は?」というのが、マスターから振られ、 観客が決めたのは、「機械工学教授が、乳首科学を、講演する」。

お下品ですね。しかしCはそれを見事にやってのけていました。彼は「乳首と目は、共進化した」という仮説を講演していました。なかなか伝えがたい面白さ。 腹を抱えて笑いました。3時間ほど前にラボミーティングで血縁選択の理論について議論していたCが、別人のようです。

結局ショーは7,8回のパフォーマンスから構成されていましたが、いやあ、本当に楽しかった。

その後、いろんな人と話しをしてから、23h00すぎに帰宅。ベルギービールをジョッキ2杯ほど飲んでしまったので、眠くてたまりませんでした。 歯磨きをして、24h00ごろにころっと就寝。